研究論文とは、単なる結果の報告書とは明確に異なり、「論じること」が必要です。
そのため、出てきた結果と自分の考察を明確に区別し、客観的に自分の考察・理論の妥当性の証明を行うことが必要です。つまり、有意な結果を並べておけば、読者が勝手に解釈してくれるという姿勢を捨てることが大切です。
また、他人の考えたことと、自分の考えたことを明確に区別することが重要である。特に、医療、理工系では他人のアイディアを盗むことはタブーとされています。
言い変えれば、日頃より、他人の成果を評価する姿勢が大切である。他人の論文に対しての安易な批判はすべきではありません。

目次
論文における議論
論文における議論とは、事実や理論から結論を導くことです。この過程を論理、その方法を論理展開(論法)と言います。事実や理論は、結果などに文章で著されます。
また、結論も文章で提示します。この事実・理論と結論のつながり部分は、文章とならず読み手の頭の中で展開されます。
正しい議論の条件は
- 事実・理論が正確である
- 話のつながりが正確である
特に文章にならない話のつながりがうまく読者に伝わるかどうかで、議論の成否が決まります。
文章表現について
論文執筆の基本は読者の立場に立って書くことです。そのためには,平素から他者の論文を読む際に,読み易さの観点からも注意して読んでおくことが大切です。
明瞭に
研究論文は、一つの文章には一つの主張、一つのパラグラフには一つの主題とします。
言いたいことが直截に誤解なく,しかも能率的に伝わる文章を書く.そのためには,伝えたい情報の一つ一つを明確な短い文章にします。
そして一つ一つの文章が二通りの意味にとられる恐れはないか,代名詞や関係代名詞が何を指しているかが明確かを考えます。
「その」「このような」などのあいまいな表現は出来るだけ避けるようにします。
さらに一つ一つの文章の配列の仕方が、論文のわかり易さ、読み易さに決定的な役割を果すことも忘れてはいけません。
簡潔に
冗長な表現、あいまいな表現、不正確な言い方を避け、なるべく定量的な表現を行うようにします。
著者の意図を伝えるのに直接必要でない事項は思い切り良く省略しましょう。本質的でない情報はかえって読者に混乱を招き,論文を読み続ける気を失わせる原因となります。
筋道立った表現
読者は論文の主題やそれに関連する事柄を著者のようにはよく理解しておりません。
論理の鎖の環の一つを著者が無意識のうちに省略したため,読者がそれをたどれなくなることが多々あります。
条件の記述に落ちはないか,論理の飛躍はないか,読者の立場から記述を綿密に吟味することが大切です。
それだけでわかる表現
論文は自己完結していなくてはいけません。
論文の中に与えてある情報だけで,読者が著者の記述をすべて理解できるように書くことが必要です。
不思議なことに、研究論文の筆者が意図するが、読む側の立場から見ると全く別の解釈をされてしまうことがあります。
従って書きっぱなしというのは良くなく、自分を純粋に読む側の立場に、置いた上で読み直してみることが必要です。
明記すべきこと
自分の研究と他人の研究の引用とがはっきり区別できるように書き,図や式などで他人の成果を利用するとこは出典を明らかにしなければなりません。
また,データを示す場合には、どういう誤差があり得るか,データの精度はどれだけかを明記しなければならない。同様に、結論はどういう条件のもとで成り立つものかを明記しなければならない。
具体的には、実験から求めた数字(平均値、中央値)だけではなく、それらの数字に付随する標準偏差や四分位偏差が必要になります。
- 平均値±標準偏差
- 中央値±四分位偏差
論文の区切り
一つの研究に対して、複数の論文を書くとき、どの範囲で区切りにするかは慎重に判断しなければならない。一論文の中で一つの明確な主張が原則です。
論文の体裁
序章
研究の背景
研究をとりまく社会環境、今まで行われてきた研究
研究の目的
背景をもとに自身の研究の必要性・意義・従来の研究との差(独創性)を明確化
論文の構成
構成と各章の位置付けを書く(フローチャートなどを使う)。
また、各章ごとにも、その章の位置付けが明確になるよう序と結論を書くことが望ましい。
研究の手法
理論、実験/計算手法(複雑な式はAppendixにまわす)
他人が提案したものと、自分が提案するものを明確にわける。
研究論文は自身が提案するものを重視し、それ以外はなるべく簡略に書くべきです
結果
なるべく主観をいれずに、客観的に行った実験・計算の結果のみを正直に示す。
考察
出てきた結果に対する自分なりの解釈を述べ、意義をもたせる。
自分以外の実験データとも比較検討することが望ましい。
ここでも他人の意見と自分の意見とを明確に分ける。また、単なる結果の説明や感想で終わってはいけない。解釈が正しいことを証明するために行った実験・検討などもここで述べる。
結論/課題
結論
論文の要約を記し、特に強調したい点を「~という検討を行って、~が明らかになった」などと記す。
序章で述べたことと矛盾しないように気をつける。また、序章と同一の内容にならないようにする。
課題/展望
不明な点。これから必要とされる検討課題や研究論文の制限などを明確に記載する。
参考文献/謝辞
- 雑誌からの引用:著者名・題名・文献名・巻・ページ(年号)
- 本からの引用 :著者名・”本の題名”版、ページ(年号)・出版社・その所在地
- 参考文献は必ず読んだもののみ挙げる
- 謝辞は研究を行うにあたって支援を受けた団体、個人的に議論した人を挙げる。
付録(Appendix)
本文と付録を分けて作る。本文には、論旨の記載に必要な範囲でデータ、プログラムを掲載する。
単純なデータ群、プログラム群は本文に記載してはならず、付録にまわす。
チェックポイント
- 意図を伝えるのに必要な情報をすべて盛り込んであるか.
- 余分なことを書いてないか.削れる箇所はないか.
- それぞれの項目に適切な重みをつけて記述してあるか.
- 記述の進め方は筋道立って,十分な根拠を備えているか.論理の飛躍や不連続がないか.
- 十分に定量的な説明をしているか.
- 最終的に引出そうとしている結論に対して十分な裏付が示されているか.
- 表題,節の分け方,見出し名は適当か.ページ番号は振ってあるか.
- 図表は有効に使ってあるか.見易さは十分か.縦軸、横軸の記載、記号の記載など図の中だけで意味が理解できるようになっているか.図表の見出し(図は下、表は上)、スケール、単位の落ちや誤りはないか.
- 文字,記号の説明,数値の単位に落ちはないか.
- 一般に慣用されていない省略名を用いていないか.もし用いているなら初出の際に full spelling を与えてあるか.
- 原稿枚数の水増しはしていないか.(資源の無駄!)
- 各章ごとに、その章の位置付けが明確になるよう序と結論があるか.
以上の各項に照らして不十分な箇所が見つかったなら,その書き直しとそれに伴う他の箇所の修正を行いましょう
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