英語論文における記述記号の基本 『引用符(クォーテーション)』

論文作成術

我々、研究者にとって国際舞台で研究結果を発信するために必要不可欠なツールのひとつが英語になります。

しかし、ビジネス用の英語レッスンは巷にあふれていても、学術研究者向けの英語を教えてくれる場はほとんどないのが実情です。

初めての英語論文の執筆や学会発表は、研究室の先輩や仲間の見よう見まねで乗り越えた……という方も多いのではないでしょうか。本ブログでは、初めて英語論文を書く方や学術英語の基礎をもう一度押さえたいという方のために、私自身も医学系研究者であり、研究者による研究者のための“使える”英語論文執筆の基礎知識をご紹介します。

目次

シングルクォーテーションとダブルクォーテーション

英語の引用符には、シングルクォーテーション(一重引用符)とダブルクォーテーション(二重引用符)があります。

それぞれの引用符の使い分け方については厳密なルールはなく、また、イギリス英語とアメリカ英語でも標準的な用法が多少異なります。

それゆえ、正しい用法と誤った用法との区別はありますが、使い方に関してはある程度の自由があります。最も重要なことは使い方の一貫性です。

自己言及

次の文を見てみましょう。

The English word “science” comes from the Latin scientia, meaning ‘knowledge’.

ここで「science」という語は科学のことを意味しているのではなく、「記号」としてその語自身を指しています

ある語句が記号のように用いられる場合には、その特別な用法を示すため特別な形で表示する必要があります。ダブルクォーテーションはそうした場合によく使用されます(イタリック体も同様に用いられます)

なお、「knowledge」にシングルクォーテーションが付いていることに注目してください。シングルクォーテーションが付くのは、「knowledge」も特別な意味で使用されているからです。しかし「knowledge」は「science」と異なりその語自身ではなく、その単語が本来持つ「意味」を指しています。(ある意味を「指す」ことと「表す」ことは異なる行為ということに注目してください。)このような時はシングルクォーテーションで示します。

最後に、「scientia」がイタリック体で記されていることに注目してください。

この語も「science」と同じように用いられていますが、外国語(この場合英語にとっての「scientia」)はイタリック体にして表記するのが慣例で、引用符は付けません。さらに引用符を加えるとぎこちなくなってしまうからです。

用語の定義

物事の呼称を定めたり用語を定義したりするときは、対象となる言葉を引用符で囲みます。シングルクォーテーションとダブルクォーテーション、どちらを用いることもできますが、そのいずれかを選んだら一貫して最後まで用いなければなりません

以下はこの用法の典型的な例です。

1. [米] In this paper, we call these cases “asymptomatic outliers.”
(ピリオドの位置がダブルクォーテーションの内側:よりアメリカ的)

[英] In this paper, we call these cases “asymptomatic outliers”.
(ピリオドの位置がダブルクォーテーションの外側:よりイギリス的)

2. We refer to this as a ‘naïve solution’, because it results from what is known as a ‘naïve perturbation expansion’.

3. Let us term this short period of contraction the ‘secondary phase’.

注釈、注解

先に挙げた例文での「knowledge」の用法は「gloss」(「注釈」、「注解」)と呼ばれ、一般的にシングルクォーテーションで示されます。

以下にこの用法をさらに例示します。

In this work, we use the term “almost certainly convergent” to mean ‘convergent for all but at most a measure 0 set of processes’.

比喩的な用法

Each electron “feels” the surface charge through the surrounding fluid.

ここで動詞「feels」はより正確な表現の代わりに、より直感的なイメージを伝えるように比喩的な意味で用いられており、そのことを表すためにダブルクォーテーションが付いています。

今回のポイント

シングルクォーテーションとダブルクォーテーションの用法
・引用符の使い分け方については厳密なルールはなく、大事なのは使い方の一貫性を維持すること

用法1:自己言及

特別な用法を示すために使われる
・ある語句が記号のように用いられる場合:ダブルクォーテーション、イタリックもよく使われる
・単語が本来持つ「意味」を指す場合:シングルクォーテーション

用法2:用語の定義

・物事の呼称を定めたり用語を定義したりするとき:シングル、ダブル両方用いられる
※ただし、いずれかを選んだら一貫して最後まで用いるこ

用法3:注釈、注解

・「注釈」、「注解」を表したい場合:シングルクォーテーションが用いられる

用法4:比喩的な用法

・その語句を比喩的な意味で用いたいとき:ダブルクォーテーション

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